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憲法を変えたら、さらなる解釈改憲が待っている

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 どうも、永らくのご無沙汰でした。(気まぐれで文体を変えます)
 このブログ、放置してもぺんぺん草も生えないようなので、忙しさにかまけていました。

 いきなりですが、長野県上伊那郡中川村の村長・曽我逸郎氏による「中川村戦没者・戦争犠牲者追悼式 式辞」で次のように述べられています。

「・・・なんとか命を永らえて1945年の敗戦を迎えた人たちは、新しい憲法の平和主義、戦争の放棄を心の底から喜びました。戦争の悲惨さ、愚かさを骨身にしみて痛感していたが故の喜びであったに違いありません。
 であるのに、敗戦後68年が経とうとする今、日本国憲法前文において国家の名誉にかけ全力をあげて誓った崇高な理想と目的を忘れ、我が国を、現実妥協的に戦争をする、ありふれた、普通の、凡庸な、志のない国にしようとする人たちが現れています。外交力、政治力で問題を解決する自信を持てずに、軍事力に頼ろうとする人たちであり、戦争の悲惨さ、愚かさを忘れた、まさに平和ボケの人たちだと言わざるを得ません。・・・」

 私もかつて「日本人は平和ボケしているから、軍事力で平和が守られると勘違いする」と書いたことがありますが、まさに我が意を得たりという感を強くします。

 日本国憲法第九条には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と書いてあるのに、自衛隊という名の戦力を保持しています。解釈改憲というやつですね。「文脈」以前の、このような「意図的な誤読」が日本人の得意とするところなのでしょう。

 自民党の憲法改正草案では、この部分が「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」となっています。もしこのように書き換えられたら、その先にもさらなる解釈改憲が待っていることは火を見るより明らかです。当然、集団的自衛権が正面から主張されるようになり、アメリカの言いなりになって、日本の「国防軍」が海外の戦場へ送られるようにもなるでしょう。国旗・国家の法制化の際にも強制はしないと約束したのに、教育現場などでは現に強制されています。もうだまされてはいけません。

 ところで、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は、5月13日の記者団との会見の場での従軍慰安婦をめぐる発言に端を発した一連の報道について、文脈を無視した誤報をやられたと憤っているようです。

 5月13日に橋下氏は次のように語っています。

「そりゃそうですよ、あれだけ銃弾の雨、銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときにね、それはそんな猛者集団といいますか、精神的にも高ぶっている集団はやっぱりどこかでね、まあ休息じゃないけれどもそういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度っていうものは必要なのはこれは誰だってわかるわけです。」

 これは、後の弁明によると、今は慰安婦制度というものは否定されるべきだが、当時存在していたということは「必要とされていた」ということ、そういう厳然たる事実について述べているにすぎない。だから世界各国の軍隊も慰安婦制度を利用していた訳で(注1)、日本だけが非難される謂われはない、という文脈に位置づけられる発言なのだそうです。

 だとしたら彼は、大変日本語が不自由な人であるのでしょう。「必要とされていた」と言えば、必要とした主体が想定されます。実態に即して言えば、「必要であると(軍の上層部が)判断した」という意味にもなるでしょう。しかし、「必要なのはこれは誰だってわかるわけです」と言えば、「誰だってわかる筈だ」という橋下氏個人の判断を述べていることになります。

 そうすると、この先にも戦争になれば、戦場では当然、「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていかねばならない」状況になる。そんな状況下で兵士を休息させてあげようと思ったら慰安婦制度が必要なのは誰だってわかる筈だと、橋下氏は考えるということになります。

 ここは百歩譲って橋下氏の弁明するところの「文脈」に従い、「(女性蔑視の風潮が蔓延し、人権意識の大変低かった)当時は」という言葉を補って、「誰だって慰安婦制度が必要だと考えたに違いない」と続けることにしましょう。

 さて、2013年のただ今現在も、憲法で保障されている筈のいろいろな人権が蹂躙されている実態は、そこここに厳然として存在しています。

 派遣社員や不定期雇用の労働者の人権無視は目に余るものがありますが、正社員であっても賃金不払いやサービス残業の常態化は相変わらずです。「栄養欠乏」、「栄養失調」、「食料の不足」による死亡を加えた広義の餓死者は2011年で2053人に上り、ここ数年増え続けているそうです(注2)。

 「5月16日放送のNHKあさイチ」や6月5日の「NHKクローズアップ現代」でも採り上げられていましたが、文科省の調査によると、住民票を残したまま行方不明になり、学校に行っているかどうか1年以上確認できない小中学生が全国で1191人(平成23年度)にも上り、就学前の子供についてはその実態さへ不明とのことです。「クローズアップ現代」が小出しにしたデータによれば、特にこのことは、橋下氏のお膝元である大阪において深刻なようです。

 仮に数十年後、再び橋下氏のような大阪市長が誕生したとして、その未来の市長もまた、「当時の状況下でそういうことが放置されるのは当然であることは誰だってわかる。日本よりもっとひどい国はいくらでもあった。」などと言うことになるでしょう。

 タイトルに書いた、「憲法を変えたら、さらなる解釈改憲がまっている」というのは、なにも九条に限ったことでもない訳です。

 依然として橋下氏を擁護する意見も少なくはないようですが、日本が人権後進国であることを世界中の人々が知ることとなった、このことが唯一、橋下氏の功績と言えるのかもしれません。

ーーーーーーーーー
注1)制度としての慰安婦が、世界の各国の軍隊にも存在していた主張するのなら、橋下氏はその証拠を提出すべきです。

注2)舞田敏彦さんの「データエッセイ」にある「餓死者数の長期推移」の記事を参照しました。

 これに対して、「千日ブログ ~雑学とニュース~」に掲載された「日本の餓死者数2053人は間違い、2011年は45人 過去30年の最高は93人」という記事では、サンケイ新聞の記事をもとに、「食料の不足」による死亡のみを餓死者としています。


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