カルデラの深部構造、コールドロン
カルデラは「火山の活動によってできた大きな凹地」のことで、地形用語であり、姶良カルデラは、その中の「陥没カルデラ」に分類される。また、陥没カルデラの地下構造まで含めた全体はコールドロンと呼ばれる。古いカルデラが浸食・削剥されて凹地の地形が認められなくなると、もはやカルデラとは呼ばれなくなるが、その地下構造が残されていると認識された場合にはコールドロンと呼ばれる。
陥没カルデラは、コールドロンの研究などから地下構造までを考慮して、キラウエア型、クレーターレイク型、バイアス型に三分類される。キラウエア型は玄武岩質マグマを噴出する盾状火山に特徴的に現れるので、ここではクレーターレイク型とバイアス型が問題となる。
クレーターレイク型は、主に安山岩質~デーサイト質マグマが大型の火砕流および降下火砕物として中央火口から噴出した直後に火口周辺が陥没して生じる。カルデラの直径は5~10 km程度であることが多い。バイアス型は、主に流紋岩質マグマの環状の割れ目にそった大規模火砕噴出によって,中心部の屋根がピストン状に一体となって陥没して生じる。カルデラの直径は15~25 km程度であることが多い。
陥没カルデラの地下構造が現れている一例として、図2に宮崎ー大分県境付近にある大崩山(おおくえやま)コールドロン付近の地質図を示す。文献7のFig. 2 と併せて見るとより分かり易いであろう。図中ピンク色で示された環状の岩脈は花崗斑岩からなり、カルデラ噴火の際に、陥没しつつあるカルデラ壁の割れ目から吹き出したマグマの通り道(火道)がそのまま固結したもの、あるいは、再びマグマ溜まりが充填されて上昇し(再生カルデラ)、環状割れ目に沿って新たな貫入がおこったものと考えられている。中央にある赤色の岩体は花崗岩で、カルデラ深部にあったマグマ溜まりが上昇して再生ドームを形成した後、固結し、浸食・削剥によって地表に現れたものと考えられている。
このようなコールドロンは日本の各地に多数知られており、ほとんどのケースで環状岩脈が認められている。例えば、同じ宮崎県のここには、三重の陥没構造があって、一番外側に環状岩脈が認められる。このようなことから、直径20 kmの姶良カルデラは、バイアス型である可能性があるのではないかと思われる。なお、鬼界カルデラもかつてはクレーターレイク型に分類されていたが、今ではバイアス型と考えられている(その1の文献1)。カルデラがクレーターレイク型であるかバイアス型であるかは、次に述べる噴火の前兆現象を考える上では重要と思われる。
カルデラ巨大噴火の前兆として考えられる現象
姶良火砕噴火の例に示されるように、もし、長い静穏期の後に突然カルデラ巨大噴火が起こり得るとして、その前兆現象はどのように捉えられるであろうか。既に述べた文献1では鬼界カルデラの噴火の際には降下軽石の噴出と大規模火砕流の噴出の間に大きな地震がおこった証拠があると述べられている。しかし、29,000年前の姶良カルデラ噴火のように、最初の降下軽石の噴出そのものがVEI=7にも達する巨大なものになり得るとしたら、その前の前兆を捉える必要がある。
火山地質学の研究成果は、地質学的な時間スケールで、どのカルデラがより危険度が高いのかを教えてくれるだろう。将来の巨大噴火の危険度が高いと目される火山が特定されたら、そこに近代的な観測機器を集中させて、人間の生活時間スケールでの噴火予知が目指される、ということになっている(筈である)。
1991年におこったフィリピンのピナトゥボ山の噴火(VEI = 6)では、地震の観測、傾斜計による山体膨張の観測、二酸化硫黄の放出量の観測などから、事前に避難指示が発令され、数万人の人命を救ったとされている。しかし、ウィキペディアの「ピナトゥボ山」を読むと、事前の避難指示は、素人目にも巨大噴火の迫っている兆候が、これでもかというほど多発し、そして「高さ7000m以上の噴煙」を上げた噴火がおこった後に出されている。もし一発目の噴火が大隅降下軽石を噴出した規模(VEI = 7)のものであったとしたら完全にアウトである。
おそらく、環状割れ目からの噴出によるウルトラプリニー式噴火の際には、事前の火山性微動もカルデラ全体に拡がるようなスケールで観測されるのではないかと期待される。直前になれば、火山性微動が環状に連なっておこったりもするのではないかと期待される。マグマ溜まりの規模が大きければ、それだけ地震学的な手法などから、そのサイズや挙動を捉えることも容易になるのではないかと期待される。しかし、そうしたことは近代科学が未経験のことであって、単なる想像にすぎない。
なお、軽石流を放出するようなカルデラ巨大噴火では、マグマの発泡現象が決定的に重要で、様々な模擬物質を用いた実験的な研究や理論的な研究が数多くなされている。それらのいくつかに目を通したが、「上昇=減圧 → 発泡」とするような説明や、「蓋が」圧力を高めて大きな噴火を準備するというような説明があって、重力場でおこる現象としてそのカイネティクスがどうにも理解できないので、論評は控えることとする。
------------------------------------------------
文献7:高橋ほか(2014)大崩山火山深成複合岩体火成岩類の全岩主化学組成(pdf: 900 KB)