福島の原発事故に関連して、気になるニュース2件をメモ。
1)マニュアルに「5%超で炉心溶融」と明記:毎日新聞
2016年2月24日 19時28分(最終更新 2月24日 23時18分)
東京電力は24日、福島第1原発事故当時、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)の判断基準を定めたマニュアルがあったにもかかわらず、誰も気づかなかったと明らかにした。この基準に従えば、2011年3月14日早朝には1、3号機で炉心溶融が起きたと判断できていたが、東電は当時、「判断基準がない」との説明を繰り返し、炉心溶融を公式に認めたのは事故から約2カ月後の同年5月だった。東電によると、今月、柏崎刈羽原発がある新潟県に事故の経緯を説明する過程で、当時のマニュアルを再点検したところ、「炉心損傷割合が5%を超えていれば炉心溶融と判定する」と明記されていた。事故時も含めてこの5年間、誰も気づかなかったという。当時の原子力災害対策特別措置法では、炉心溶融と判断した場合、直ちに国に報告することが義務付けられていたが、東電は「原子炉格納容器内の放射線量などの必要なデータは報告していた」と釈明した。東電の白井功原子力・立地本部長代理は記者会見で「十分に調査ができていなかったと反省している。ただ、この件で収束作業の対応や手順が遅れたとは考えていない」と説明した。今後は弁護士など第三者の協力を得て当時の経緯などを詳細に調査するという。【鳥井真平】
「炉心溶融と判断した場合、直ちに国に報告することが義務付けられていた」とあって思い出したのだが、「大規模地震対策特別措置法」(いわゆる大震法)の中で関連法として位置づけられている気象業務法第十一条の二第一項には次のように書かれている。
1 気象庁長官は、地象、地動、地球磁気、地球電気及び水象の観測及び研究並びに地震に関する土地及び水域の測量の成果に基づき、大規模地震対策特別措置法 (昭和五十三年法律第七十三号)第三条第一項 に規定する地震防災対策強化地域に係る大規模な地震が発生するおそれがあると認めるときは、直ちに、政令で定めるところにより、発生のおそれがあると認める地震に関する情報(当該地震の発生により生ずるおそれのある津波の予想に関する情報を含む。)を内閣総理大臣に報告しなければならない。2 気象庁長官は、前項の規定により報告をした後において、当該地震に関し新たな事情が生じたと認めるときは、その都度、当該新たな事情に関する情報を同項の規定に準じて報告しなければならない。(以下、略)
また、内閣府のウェブサイトの中の防災情報のページにある「東海地震対策」のページの目次で「地震防災基本計画 (警戒宣言時の基本的方針等)」にある「本文」にリンクしてある「東海地震の地震防災対策 強化地域に係る地震防災基本計画」では、第1章 警戒宣言が発せられた場合における地震防災に関する基本的方針」として、その冒頭に次の様に書かれている。
1 正確かつ迅速な情報の周知警戒宣言が発せられた場合の民心の安定を図り、混乱の発生を防止するためには、警戒宣言、気象庁が発表する東海地震に関連する情報の内容等を正確かつ迅速に防災関係機関等及び地域住民等に周知させる必要がある。このため、これらの情報の周知措置については、定型的な伝達語句を定める等その実施要領を定めるものとする。また、テレビ、ラジオによる迅速な報道による周知が確保できるよう措置するものとする。
かつてここでも簡単にふれたことがある「大震法」関連の法体系は、大規模な災害が切迫していると判断される事態に直面したとき被害を最小のものにするにはどうしたら良いのかについての多分野の有識者による研究と熟慮の成果である。上記の「東海地震の地震防災対策強化地域に係る地震防災基本計画」には、罰則規定を伴う事細かな行動指針のようなものが定められていて、これを読めば、こうした事態でパニックを抑えつつ被害を最小化するには、徹底した情報開示によって地域住民の納得を引き出したうえで公共性の高い職種にある人々を強権的なコントロール下に置くことがベストであると判断されていることがわかる。情報の秘匿によってパニックを抑え込むという発想にしばしば接するが、素人の思いつきに過ぎない暴論である。
ところで、「大震法」の第二条では「地震災害」を「地震動により直接に生ずる被害及びこれに伴い発生する津波、火事、爆発その他の異常な現象により生ずる被害をいう」と定義している。この定義に従えば、地震の影響によって福島第一原発が爆発して放射能汚染を招いたことも大震法が定める「地震災害」に含まれることになる。上記の「基本計画」が適用されるのは目下のところ地震防災対策強化地域に指定されている東海地方に限られるが、「想定外」の地域におこった際にもその趣旨を汲んだ施策が実行されるべきであろう。
「炉心溶融と判断した場合、直ちに国に報告することが義務付けられていた」のだから、電力会社には、東海地震の切迫性について判断する「判定会」に相当するものが組織されていなければならなかった筈である。原子炉災害に備えては、炉心溶融がおこった後で公表することよりも炉心溶融が切迫していることをいち早く察知して、すみやかに公表することが求められる。だが福島の原発事故に際して、彼らは炉心溶融(メルトダウン)の切迫性について正しく判断し得たのであろうか。はっきりしているのは、正しく判断していたのに隠蔽したか、正しく判断できない無能者ばかりであったか、そのどちらかということである。そのような者らが次々とまた原発を再稼働しょうとしている訳だ。
関連して次のニュースもまた大変気になる。
2)東電元会長ら旧経営陣3人 強制起訴へ(NHK NEWS WEB)
2016年2月26日 11時52分
福島第一原子力発電所の事故を巡って、検察審査会に「起訴すべき」と議決された東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人について、検察官役の指定弁護士が26日にも業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴する方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。3人は無罪を主張するとみられ、原発事故を防げなかったことが、罪に当たるかどうかが初めて法廷で争われることになります。福島第一原子力発電所の事故を巡って、検察は東京電力の勝俣恒久元会長(75)、武黒一郎元副社長(69)、武藤栄元副社長(65)の3人を不起訴にしましたが、去年7月、検察審査会が「起訴すべき」と議決しました。これを受けて裁判所から選任された指定弁護士が起訴に向けた手続きを進めていましたが、26日にも勝俣元会長ら3人を業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴する方針を固めたことが関係者への取材で分かりました。関係者によりますと、指定弁護士は3人が福島第一原発が津波で浸水する可能性について報告を受けていたのに必要な対策を取らず、事故で避難を余儀なくされた福島県大熊町の双葉病院の入院患者などを死傷させたとして、強制的に起訴するものとみられます。3人は今後の裁判で「巨大な津波は予測できなかった」などと無罪を主張するとみられ、原発事故を防げなかったことが、罪に当たるかどうかが初めて法廷で争われることになります。
ここで起訴事実として争点となるのは巨大津波が予測できたかどうか、つまり事故を未然に防げたかどうかにあるようだ。しかし、事故をおこした後で避難の初動を遅らせ、また避難経路の判断ミスを招き、その結果数十万の人々に一般公衆の許容限度を超えた放射線被曝を強いる結果になった要因として情報隠蔽などの設置者義務違反があったことも裁かれなければならない筈だ。さらにまた、そうしたことに根拠のない「安心論」をふりまくことで一部の学者やジャーナリストが荷担したことも裁かれなければならないのではないのか。彼らがいつまでも「安心論」をふりまき続け、炉心溶融(メルトダウン)の切迫性についての判断ミスや情報の秘匿を弁護して、パニックを押さえるのにはその方が良かったと主張するのは、その罪を自覚し、そこからなんとか逃れようとしているからではないのか。それとも未だに無自覚なのか・・・