ポール・サイモンの新作をめぐる原稿。S&G時代から、『時の流れに』、『グレイスランド』もさらい、19世紀のアメリカにも遡り、7000字も書きました。マイクロトーナルの解説も。mikiki.tokyo.jp/articles/-/112…6:06 - 2016年6月3日
高密度な7000字、やっぱりプロはすごいなあ。「ビートルズ世代」の下は「サイモン&ガーファンクル世代」? ポール・サイモンのファンとしては嬉しい記事で、夢中になって読んだ。74歳と81歳のコンビということでロイ・ハリーが出てくるけれど、懐かしい。
ファンには周知のことで、そうでない人には無用なエピソードとして触れられてないのだろうけれど、デビューアルバム『水曜の朝、午前3時(1964)』が不発に終わって、失意の中、ポールはヨーロッパ放浪の旅に出る。その間、アルバムに収録された『サウンド・オブ・サイレンス』にエレキギターやドラムを被せてかってにシングルカットされたのが世界中で大ヒット。その時のレコーディング・エンジニアがロイ・ハリーだった。その後に出たベスト盤のライナーノーツでその時の苦労話を読んだ記憶がある。別々にマスター録音されたのを完全にシンクロさせるのに、二台のデッキのスピードを微妙に調節したと書かれていた。今はもっと簡単にできると思うけれど、当時は大変だったようだ。それでも聴き込めば、この『サウンド・オブ・サイレンス』の音にはやはり積み木細工のような危うさが残っている。
YouTubeに置いてある64年のオリジナルヴァージョンの『The Sound of silence』の 視聴回数は6千3百万回以上で、これはコアなファンによるものか。
「マイクロトーナルの解説」もあるけれど、ペルシャ音楽の微分音階とどう違うのだろう?
健太郎さんの解説記事の末尾を引用:
現在行われているアメリカ大統領選の予備選挙において、民主党のバーニー・サンダース候補は、サイモン&ガーファンクルの〈アメリカ〉をキャンペーン・ソングに使っている。その曲の有名なサビ〈I’ve come to look for America〉(僕はアメリカを探すためにやってきた)そのままに、どこへ行っても、どこまで踏み込んでも、アメリカを探し、アメリカを見つけてしまうのが、ポール・サイモンというソングライターの宿命なのかもしれない。そして、『Stranger To Stranger』というアルバムもまた、そんな彼の半世紀以上に渡る旅の果てに生まれた作品であることを強く、深く、感じさせるのである。
私はこの曲『アメリカ』を聴くと、どうしても映画『卒業(1967)』のラストシーンを思い出してしまう。花嫁を「奪還」しに来たベンジャミン(ダスティン・ホフマン)と真実の愛に目覚めた花嫁エレーン(キャサリン・ロス)は、結婚式場から二人連れだって表通りへ出て走り、そこに居合わせたバスに飛び乗る。一見ハッピーエンドのようになっているが、エンディングでは、バスが動き出して、後部座席に座った二人が次第に戸惑いと不安にかられた表情へと変わっていく様を長回しで追い、『サウンド・オブ・サイレンス』がながれるという趣向になっている。
このラストの数十秒で表現されているある種の暗転は、ポールの書いた『アメリカ』にも共通するもので、激しさを増していたベトナム戦争が当時の若者に暗い影を落としていて、祭が終わって冷静になれば未来は決して明るくなどないと気づかざるを得ない状況が暗喩となっているように感じる。テト攻勢のあった1968年のアメリカ軍の死者は1万2,000人で、ベトナム人の死者はその5倍ほどだった。
サイモンとガーファンクルは二人の音楽性の違いから70年頃よりソロ活動に移行するが、72年には民主党大統領候補ジョージ・マクガヴァン支援コンサートに揃って登場している。Wikipediaによると、当時のマクガヴァンの選挙公約は、ベトナムからの米軍の即時撤退とそれを引き換えとする捕虜の返還、および脱走兵に対する恩赦、3年間に37%の軍事支出の削減、全国民に対する1000ドルの給付(これは6500ドルの最低収入制度の創設に切り替えられた後に公約から外された)、憲法への「平等条項(Equal Rights Amendment)」の挿入など。本選挙の結果は、現職のニクソンに得票率で60-38%(獲得選挙人数で520-17)の惨敗。
ちなみに私は、82年の大阪球場でのS&G再結成コンサートに、後に妻となる女性と一緒に行って聴いている。演目は前年9月のニューヨーク・セントラル・パークでのコンサートのライブ盤に収録されているのとほぼ同じだった。『アメリカ』の歌詞が少し変えられていたのも同じ。当時、そんな話をしたら年長のビートルズファンから少女趣味だと言われたことがある。これは少女を小バカにしているのだな、きっと。天の邪鬼の私は、いや、S&Gのファンなのではなくて、ポール・サイモンのファンなのだとは、敢えて言わなかった。と書いて思い出したのだけれど、ここに書いた大場里美さんもS&Gの、特にポール・サイモンの大ファンだった。
この時のコンサートの様子はYouTubeにいっぱいアップされている。