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Channel: さつきのブログ「科学と認識」
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巨大噴火で大量の放射性物質が放出されるという「釣り」をする人について

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 気になったので、これ・・・

川内原発の許可取り消し求め 住民らが提訴 | NHKニュース www3.nhk.or.jp/news/html/2016… 何度目? あとこの人達に噴火は地上に放射性物質を供給しており、巨大噴火が起きた場合、殆どの場合福島の平均を超える放射性物質が供給されるって言ったらどんな反応するんだろうw
20:16 - 2016年6月9日

あ、計算ミスったかも。 100km3÷(2750kg/m3)=275,000,000,000,000kg (5mg/kg)×(1.2Bq/mg)=6Bq/kg なのでウラン鉱山が吹っ飛ばない上での最大は1650テラベクレルか。 ごめんねてへぺろ。
0:33 - 2016年6月10日

 まあ、人をひっかけて嘲笑する系なのだろうから、どうでもいいと言えばそうなのだけれど、この方の一連の Tweet にはいろいろと問題がありそうなので、この際ちょっと厳密に計算してみよう。

 まず火山噴出物の体積が 100 km3 に達するVEI(火山爆発指数)=7の噴出物の密度について。VEI は爆発的な噴火による噴出物の体積で定義され、静かに流れる溶岩流には適用されない。これに対して早川の噴火マグニチュードは質量で定義し、溶岩流にも適用される。典型的な破局噴火はほぼ火砕流であり、質量への換算密度は 1 g/cm3 が推奨されている(溶岩流では 2.5 g/cm3 )。上記の計算で密度を2.75としている根拠がわからないが、ここでは 1.5 g/cm3 を採用しよう。

 次に、火山噴出物に含まれる放射性核種について、

@CordwainersCat はははw 崩壊系列と放射線量に何の関係があるんですか? 巨大噴火時に放出される放射性物質の殆どはウランですよ。 量が膨大だから半減期が長いウランでも上回るのです あと何が釣れたかって? 専門用語の割に私が安定核種を上げても気付かなかったでしょう?
23:51 - 2016年6月9日

 かつてこの記事の脚注に書いたように、通常の岩石の放射能はウランよりカリウムの寄与が大きく、トリウムもウランとほぼ同じオーダーくらいはある。破局噴火に典型的な珪長質火成岩の代用として岩石標準試料の JG-1 を例にとれば、ウランが 3.47 ppm、トリウムが 13.2 ppm、カリウムが 3.34%含まれ、1 kg 中のそれぞれの放射能はウラン系列が 600 Bq、アクチニウム系列が 22 Bq、トリウム系列が 537 Bq、40K が 1,044 Bqとなる。

 lyiaseさんの計算式の (5mg/kg) から、ウランの重量濃度を 5 ppmと仮定していることがわかる。(1.2Bq/mg) は、単位が比放射能のそれで、238U 単体の値と思われるが、これは実際より一桁小さくなっている。また、系列核種の放射能も無視されている。ウラン系列とアクチニウム系列を合わせた実際の値は以下に示すように、これより二桁も大きい。

 ウランの平均原子量は 238.03 なので、ウラン238.03 g 中にアボガドロ数 = 6.022 × 10^23 個のウラン原子が存在する。1 mg 中だと 2.53 × 10^18 個となる。
その 99.27%が 238U で 2.51 × 10^18 個、0.72%が 235U で、1.82 × 10^16 個となる。
238U の半減期は T = 4.468 × 10^9 年なので、
壊変定数はλ= ln(2)/T = 1.551 × 10^-10 1/y となる。
従って1年間に崩壊する 238U の原子核の数は
(2.51 × 10^18) × (1.551 × 10^-10)=3.90 × 10^8 個となる。
これを1秒当たりに換算するとベクレルになる。
(3.90 × 10^8) ÷  (3.156 × 10^7)= 12.35 Bq
これは 1 mg あたりの値なので、 238U 単体 の比放射能は
12.35 Bq/mg = 12,350 Bq/g ということになる。(注1)

 天然ウラン中の 238U から出発するウラン系列は14回の放射壊変が永続平衡に達しているので、全体の放射能は、12.35 × 14 = 172.9 Bq となる。
同様に 235U から出発するアクチニウム系列について計算すると、6.3 Bq となり、天然ウラン 1 mg を含む物質の放射能は合計 179.2 Bq となる。5 ppm のウランを含む岩石1kg だと 875.3 Bq となる。

 ということで、岩石標準試料 JG-1 と同じ組成の火砕流 100 km3 の放射能を計算してみよう。
質量:(1.00 × 10^11 km3) × (1500 kg/m3) = 1.50 × 10^14 kg
放射能は
ウラン系列:600 × (1.50 × 10^14 kg) = 9.00 × 10^16 Bq
アクチニウム系列:22 × (1.50 × 10^14 kg) = 3.25 × 10^15 Bq
トリウム系列:537 × (1.50 × 10^14 kg) = 8.06 × 10^16 Bq
40K:1,044 × (1.50 × 10^14 kg) = 1.57 × 10^17 Bq
以上を合計すると、3.30 × 10^17 Bq (330 ペタベクレル)となり、lyiase さんの計算より二桁大きくなる。で、次の tweet、

@ishtarist @CordwainersCat さっき計算間違えました。 1650テラベクレル、ヨウ素131換算はウランの場合係数500として、825ペタベクレルとなります。 福島第一は810ペタベクレルですね。 そしてこの100km3と言うのは破局噴火で最も低い値です。
0:44 - 2016年6月10日

 これは国際原子力事象評価尺度(INES)の換算係数をもとに、238U をヨウ素131に換算したもの。このような換算は、放出された核種構成の大きく異なる事象を被曝影響の面から同一の尺度で比較する目的でおこなわれる。この場合は核種毎に換算して合計しなければならないが、238U だけでもレベル7の原発事故に相当するという次第。

 もちろんこれは単なるお遊びであって、日本列島の地殻は、もとよりこれと同じくらいの濃度の放射性物質を含んでいるので、この噴火によって空間線量が上昇するというようなことはおこらない。それを承知の上で「釣り」をしている訳だが、こんなことをして何が楽しいのだろう。

 ここでどうしても気になるのは、ウランの比放射能を 1.2 Bq/mg と一桁小さめに間違ったのはなぜか、さらに系列核種の放射能に思いが至らなかったのはなぜかということ。ここにも書いたが、うっかりミスにも、数値を多めに間違うのと少なめに間違うのとで、それぞれに異なる何らかの認知のバイアスが影響しているのではないか。

 ウランによる被曝影響を取るに足りないものとするような言説は、原子力村によってさんざん流布されてきたことである。だから、他国民の頭上に何百トンもの劣化ウランをばら撒いたり、大量のウラン残土を放置したり、数kg のウランを人がバケツで運んだりすることが平気でおこなわれる。そういう次第で、ミスを重ねつつウランの放射能の計算をやったところ、予想よりかなり小さすぎる値になってしまったので、健康影響の増加とは無関係なのにわざわざ INES のヨウ素131換算係数などを持ち出さなければならなくなった・・・なんだか、そんな気がする。

@ChouIsamu あーマントル付近だともっと高いですね、もちろん。 破局噴火なので元々の噴出量がとても多いんです。 VEI7の場合、重さにして1000億トンは最低が吹き飛びます。 ここにたった1Bq/kgでもあるとその量は100TBqになってしまうわけです。
0:57 - 2016年6月10日

 どうでもよいが、ウランはマントルにとって典型的な不適合元素で、マントル中では地殻中より二桁ほど濃度が小さい。トリウムもカリウムも同じ。

@ChouIsamu あ、それでもVEI7以上なので同じですね。 多分ですが、VEI7の後半でも川内原発は動くと思いますよ。 川内原発から見た場合、各火山から十分離れてますから、どの火山からも火砕流を受けるとは考えにくい。 火山灰は原発にはあまり影響しません。
1:06 - 2016年6月10日

前にも言ったけど原発って相対的には噴火に強いんだよね。 さすが火砕流やマグマには耐えられないかも知れないけど(高さで普通は到達しない)、基本閉鎖系なので、より広範囲に広がる火山ガスも火山灰も影響は火力より小さい。 あと川内原発の周辺に火砕流やマグマが到達するような火山は存在しない
20:42 - 2016年6月9日

 これは端的に言って間違い。鹿児島湾奥の姶良カルデラでは2万5千年ほど前の数ヶ月間に相次いで大噴火が発生し,合計の噴出量は 450 km3 に達した。その前駆的な活動である大隅降下軽石だけでも100 km3 である。私のこの記事にリンクした大隅降下軽石の写真は、その露頭位置を記事中図1に赤丸で示したが、噴出源からの距離が川内原発までの距離とほぼ等しいものをウェブ上で捜して選んでいる。写真の説明にあるように、この位置で「大隅降下軽石の層厚は約 5.5m,入戸火砕流堆積物の層厚は 15~25m」である。

 図1には入戸火砕流(シラス)の分布も示されているが、これはあくまで侵食されずに残った部分で、かつては九州南半部一帯が厚さ数m~150 m の火砕流堆積物で覆い尽くされていた。上記写真のものは下部が弱く溶結していることから、もとの厚さは 50 m 程度はあり、その下部は 300 ℃ 程度の高温になっていたと推定される。原発などひとたまりもない。ちなみに、450 km3 の噴出物が九州全土(36,749 km2)に均等に堆積したとすると、その厚さは12.2 m になる。

 もちろん、こうなったら九州人は絶滅の危機にさらされる訳だが、原発の過酷事故が重なれば四国人も本州人もタダではすまない。「原発震災」ならぬ「原発火山災害」である。かつて、このブログでも何度か触れたが、2001年3月におこった台湾第3 (馬鞍山) 原子力発電所の電源喪失事故は、塩害による高圧送電線のショートがきっかけだった。これまでがそうであったように、次の原発事故も、まったく新しい、これまで未経験の原因によっておこるだろう。たとえ10 cm の火山灰が降り積もるだけでも、未経験である以上、何がおこるか本当のことは誰にもわからないのだ。イチかバチか、洪水は我が亡き後に来たれという思想で原発は稼働されるのだが、推進側にはその自覚がない。

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注1)単位質量あたりの放射能(Bq/gなど)は比放射能と呼ばれ、ウィキペディアに解説がある。そこに、比放射能の逆数(g/Bq)がリストされていて、238U は 8.06 x10^-5 と書かれている。その逆数は 12407 Bq/g (= 12.407 Bq/mg)である。これは純粋な238U についての値であるが、私の計算は 238U を 99.27%含む天然ウランについてのもので、若干小さい値となっている。

 ウェブサイト放射性物質のベクレル値では、238U 単体は12,445 Bq/g と算出される。アボガドロ数の丸め誤差や年→秒への換算などに起因して微妙な差が出る。

 なお、天然ウラン中の 234U はウラン系列に含まれる中間娘核種の一つであり、永続平衡に達しているのでその放射能は 238U と等しいが、これを独立に計算してさらに加えるというミスをしばしば見かける。


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